DEFINITION & APPLICATION

教育学における「思考力」の定義
— 5系譜の統合と、実践への変換

行政文書・批判的思考研究・認知心理学・国際枠組み・教育哲学の5系譜の一次資料調査に基づいて「思考力」を学術的に定義し、その定義から問題づくり・授業づくり・評価の設計規則を導いたもの。前半が定義と解説、後半がその実践への変換である。

1核定義

前提 — 「思考力」という語の身分

日本語「思考力」は単一の学術的構成概念ではなく、行政的な傘概念(umbrella term)である。法(学校教育法30条2項)も答申も学習指導要領も「思考力」を独立に定義せず、「知識及び技能を活用して課題を解決するために必要な力」という機能規定しか与えていない。英語圏に一対一の対応物はなく、学術的実質は批判的思考・問題解決・創造的思考・メタ認知に分散している。「思考力・判断力・表現力」という三分は政策文書内の系譜の産物であり、三分を学術的に根拠づける一次文書は調査で確認できなかった。以下の定義は行政用語の追認ではなく、5系譜が共有する実質の再構成である。

思考力とは、目的に照らして、既有の知識と新たな情報とを関係づけ・組み替え・拡張する認知的操作を、根拠と帰結に照らして自己調整しながら遂行する能力(ability)と、その操作を発揮すべき機会に気づき、進んで発揮しようとする傾向性(disposition)とからなる、知識に支えられた学習可能な複合体である。
思考力 = 知識の上で働く認知的操作× 自己調整× 傾向性

定義の各句の典拠(系譜的正当性)

定義の句典拠系譜
「目的に照らして」デルファイ報告 "purposeful judgment"、Lewis & Smith "to achieve a purpose"
「関係づけ・組み替え・拡張」Lewis & Smith (1993) の higher-order thinking 定義(ほぼ逐語)、改訂版タキソノミーの認知過程次元
「認知的操作」Bloom→Anderson & Krathwohl、思考スキル運動、「考えるための技法」
「根拠と帰結に照らして」Dewey の reflective thought 定義
「自己調整しながら」Resnick の self-regulation、デルファイ報告、改訂版のメタ認知的知識
「機会に気づき…傾向性」Perkins・Jay・Tishman の inclination + sensitivity、Glaser の態度第一要素、Dewey の知的態度
「知識に支えられた」Willingham・熟達化研究・認知負荷理論
「学習可能な」Abrami ら (2015) メタ分析 g+=0.30、Vygotsky の内化、探究の共同体

2構造 — 三層+基盤

定義の三要素は、授業と評価で別々に扱うべき三つの層をなす。層の下には、層ではなく土台として働く二つの基盤条件がある。

第1層 操作層

何をするか

比較・分類・関連づけ・分析・推論・評価・創造など、知識に対して遂行される認知的操作のレパートリー。改訂版タキソノミーの認知過程次元、「考えるための技法」はこの層の目録。

第2層 調整層

どう制御するか

自分の思考過程を対象化し、根拠の十分さ・基準の適否・進行の見通しを監視・修正するメタ認知的自己調整。「他人が逐一指図しているとき、われわれはそれを高次の思考とは認めない」(Resnick)。この層を欠く操作の遂行は思考力の発揮とは言えない。

第3層 傾向性層

いつ・なぜ働くか

発揮すべき機会への感受性(sensitivity)と、労力を要してもなお発揮しようとする傾き(inclination)。Perkins らの実証では、思考の失敗の主因は能力不足ではなく機会への気づきの不足。この層を欠く定義は現実の知的行動を予測しない。

基盤① 領域知識

操作は知識構造の上でしか走らない

思考は常に「何かについての」思考であり(McPeck)、知識は思考力の対立物ではなく可能性の条件(Willingham)。「知識を減らして思考を増やす」型の目標設定は認知的に不成立。

基盤② 社会的媒介

思考力はまず人と人のあいだに現れる

対話的実践(探究の共同体)において人と人のあいだに現れ、内化される(Vygotsky・Lipman)。個体の頭蓋内で自然発生する能力ではなく、文化化(enculturation)の産物。

3外延と境界 — 学習者相対性の原理

含む

解決経路が事前に特定されていない状況での問題解決/何を信じ何を行うかの決定(批判的思考)/複数の規準が衝突する場面での判断/新奇で有効なアイデアの生成・評価・改善/自他の推論の吟味。

含まない

単なる想起・再認/習熟済みアルゴリズムの自動実行/指示への逐次追従。

境界の原理(この定義の最重要の含意)

境界は課題の種類ではなく学習者の履歴に相対的である(Lewis & Smith)。同じ問題が、初学者には思考力の発揮を要求し、既習者には想起課題になる。ゆえに「思考力を問う問題」は問題形式だけでは特定できない。学習者が何を既に自動化しているかを参照して初めて特定できる。熟達者の即座の直観的判断は過去の思考の産物(コンパイル済み知識)であって、その時点での思考力の発揮ではない。

4隣接概念との区別

概念思考力との関係
知能知能が「持っている容量」なら、思考力は「実際の使用」を含む(Perkins の "intelligence in the wild")。知識・傾向性込みで教育可能な点で知能と区別される。
知識・技能思考力の素材かつ可能性の条件(基盤)。対立物ではない。法文の「これらを活用して」はこの依存関係の行政的表現。
判断力思考の中核的な産物(デルファイ報告・Lipman)。思考力から独立した第二の能力ではない。行政的三分は学術的区別ではなく政策系譜の産物。
表現力思考の外化・伝達という別の行為。ただし評価は表現物経由でしか思考に接近できないため、認識論的には絡み合い、概念的には区別される。
創造性創造的思考は思考力の一様態(Lipman、PISA 2022、改訂版タキソノミー最上位の create)。学校教育の対象は日常文脈の little-c に限られる。
メタ認知思考力の内部(第2層)。答申は第三の柱側に置くが、国研・デルファイ報告・改訂版タキソノミーはいずれも思考の構成要素とする。本定義は学術系譜に従い内部に置く。
態度・傾向性第3層として定義の内部に含める。ただし論争のある選択(下記 D2)。

5論争点の判定 D1–D5

論争点判定
D1 領域一般性条件付き一般性。一般的な操作・方略は存在するが適用は領域知識に強く依存し、転移は自動では起こらない。意図的な抽象化の指導(bridging)と文脈の接近(hugging)があるときに限り限定的に転移する(Perkins & Salomon)。「教科を越えて自然に転移する汎用能力」という枠組み文書の宣言は実証的裏づけを欠く。
D2 スキル vs 傾向性複合。ただし未決着として明示。スキル一元論を採る主要論者は5系譜のどこにもいない。本定義は傾向性を内に含める側(Dewey–Perkins 側)を採るが、これは「思考力評価」を認知テストに限定する立場と両立しない。
D3 知識との関係思考力は知識の対立物ではなく知識の関数。「知識偏重からの脱却」という政策修辞は認知科学の知見と衝突する。答申自身の留保(「資質・能力の育成は知識の質や量に支えられている」)の側が正しい。
D4 測定可能性部分的にしか測定できず、その限界ごと運用すべき。第1層はパフォーマンス課題+学習履歴の参照で近似測定できる。第2層は思考の外化経由で部分的に評価できる。第3層はテスト場面が「考えるべき機会」を明示してしまうため一回性のテストでは原理的に測れない。測れる部分だけを思考力と呼び直してはならない。
D5 翻訳問題「思考力」は傘概念。三分法に学術的根拠は未提示(前提節の通り)。

教育可能性

思考力は教えられる。ただし効果は劇的ではなく教え方に依存する(Abrami ら 2015: 平均 g+=0.30、対話+真正の問題+メンタリングの組合せが最良)。内容から切り離した一般スキル訓練は転移しにくく、教科内容への融合(infusion)+意図的な抽象化の橋渡し+思考が要求され尊重される教室文化が、5系譜の知見が収束する指導形態である。教師の仕事は思考の型の注入ではなく、思考を要求する状況の設計である(Dewey)。

実 践 編

6定義 → 設計への変換規則 K1–K6

上の定義から機械的に導かれる設計規則は6つ。以降の問題・授業案はすべてこの規則の適用例である。

K1

課題は ill-structured にする

解決経路が事前に特定されず、複数解・複数規準・不確実性を含むこと。正解が一意に確定する課題は操作層すら要求しない。

← 外延(3)・操作化(Resnick)
K2

学習者履歴を参照して出題する

問題形式では思考力課題は特定できない。前提技能が自動化済みであることを確認した上で、非自明部分を「知識の関係づけ・組み替え」に置く。

← 境界の原理(Lewis & Smith)
K3

自己調整を課題構造に埋め込む

「根拠は十分か」「崩れる条件は何か」を学習者自身に監視・修正させる仕掛けを解答形式に組み込む。教師が逐一指図した瞬間、思考力の発揮でなくなる。

← 第2層(Resnick)
K4

傾向性は低手がかりで育て、低手がかりで見る

「ここで考えなさい」と明示された場面の遂行は傾向性層の証拠にならない。機会を予告せず埋め込み、気づきを長期記録。一回性テストの成績評価には使わない。

← 第3層・D4
K5

教科内容に融合し、抽象化で架橋する

内容から切り離した「思考スキル訓練」は転移しない。教科の真正な問題の中で操作を遂行させ、終盤に操作を命名・抽象化して他文脈に橋を架ける。

← D1(Perkins & Salomon)
K6

評価は三角測量、限界を明記する

①履歴参照つきパフォーマンス課題、②思考の外化物、③低手がかり場面の長期ドキュメンテーション。測れる部分だけを思考力と呼び直さない。

← 操作化の方針(6節)

7問題例

問題A 「どの代表値に語らせるか」— 情報Ⅰ・データの活用 K1 K2

前提条件(K2): 平均値・中央値・四分位数・箱ひげ図の読み書きが既習で、計算・作図が自動化されていること。未習の学習者に出せば技能課題に、直後に出せば想起課題になる。この課題の非自明部分は計算ではなく目的に照らした規準選択とその正当化にある。

本校の生徒80人の通学時間データ(度数分布と箱ひげ図を配付。最大値方向に外れ値2件を含む)がある。
  1. 学校説明会で「本校は通学しやすい」と伝えたい広報担当者と、スクールバス増便を市に要望したい保護者会は、それぞれ同じデータのどの数値・どの表現を使うと考えられるか。両者の資料を作れ。
  2. 両方の資料は嘘をついていないのに印象が逆になる。どの選択(代表値・外れ値の扱い・階級幅・グラフの種類)が印象の分岐点になったか、特定して説明せよ。
  3. 「データに誠実な」第三の資料を作るとしたら何を載せるか。その選択が(1)の二つより誠実だと言える規準を自分で立てて示せ。

(1)(2)は既有知識(代表値の性質)と新情報(目的・立場)の関係づけ・組み替え。(3)は複数規準が衝突する場面での判断であり、規準自体を立てさせることで解答経路の事前特定を防ぐ。単一の「正しい代表値」を答えさせる形式にした瞬間、この問題は想起課題に転落する。

問題B 「自分の結論を起訴する」— 教科横断・自己調整の埋め込み K3

論証を要する課題の解答形式を三段構成にする。素材例: 「朝食を食べる生徒ほど成績が高い」という調査記事の吟味(情報Ⅰ/家庭科/保健)。

第1段〔主張〕 記事の結論は受け入れられるか。根拠を挙げて自分の判断を書け。

第2段〔起訴〕 検察官役に交代し、自分の第1段の答案の最も弱い箇所を1つ特定して攻撃せよ(「相関と因果の混同を指摘した自分は、では逆方向の因果や第三因子を何個検討したか」等)。

第3段〔再審〕 攻撃を踏まえ、第1段の判断を修正するか維持するかを決め、その理由を書け。修正しない場合も、どんな追加データが出たら修正するかを明記せよ。

採点対象は第1段の正しさではなく、第2段の攻撃の的確さと第3段の応答の誠実さ。これにより「最初から完璧な答案を書ける(=既に自動化している)生徒」ではなく、監視・修正を遂行した生徒が評価される。三段構成そのものが第2層評価の窓になる。

問題C 仕込みデータ — 傾向性層・低手がかり K4

これはテスト問題ではない。通常の課題に不備を無予告で埋め込み、指摘の有無を記録する仕掛けである。

通常のデータ分析課題(例: 「配付データから学級新聞用のグラフを1点作れ」)の配付データに、次のいずれかを仕込む。課題文はデータの品質に一切言及しない。
  • 回収方法の記述に標本の偏り(昼休みの図書室で調査、等)
  • n の記載がない割合グラフ
  • 縦軸が0から始まらない比較グラフ
  • 単位の混在(分と時間)

運用規則(D4に従う):

・気づいて指摘・修正した事実をドキュメンテーション台帳(生徒×機会のマトリクス)に記録。学期に数回、教科をまたいで機会を散らす。
・一回の結果を成績にしない。「今回気づかなかった」は能力不足の証拠ではなく、機会への感受性がまだ文化になっていない証拠として扱う。
・指摘が出た授業では必ずその指摘を全体の前で価値づける。「気づいた者が得をする教室」という文化条件が効果の前提。
・毎回仕込むと「この先生のデータは疑うもの」という手がかりが生じ、低手がかり性が失われる。仕込みのない回を混ぜる。

問題D 同一素材2バージョン — 策問チェック用 K2

境界の学習者相対性を策問者自身が体感するための対比。定期考査の検討会で使う。素材は「2つのクラスの小テスト得点分布(箱ひげ図)」。

A版 「2つの箱ひげ図から、四分位範囲をそれぞれ求めよ。」

B版 「担任は『クラス1のほうが成績が良い』と言い、副担任は『クラス2のほうが良い』と言う。二人がそれぞれどの読み取りに基づいているかを推定し、どちらの主張を支持するか、規準を明示して論じよ。」

策問への最重要の含意

A版は既習者には手続きの自動実行。B版は同じ素材で規準の衝突と判断を要求する。ただしB版も、類題を反復演習した後では解法パターンの想起課題になる。「思考力を問う問題」は問題バンクに保存できる静的な性質ではなく、出題時点の学習者履歴との関係で毎回判定し直すものである。

8授業案

授業案1 「箱ひげ図はどちらの味方か」(情報Ⅰ・50分・infusion型) — K1・K3・K5

問題Dの素材を授業化したもの。単元「データの活用」の代表値・箱ひげ図の既習後(自動化確認済み)に置く。

  1. 0–5分

    課題の枠づけ

    対立する二つの主張(担任 vs 副担任)を提示。「どちらが正しいかではなく、どちらの主張がどの読み取りに支えられているかをまず解剖する」と枠づける。

    → 目的の明示。ただし解決経路は示さない(K1)。
  2. 5–20分

    グループで解剖

    4人グループ。ワークシートは「主張/それを支える読み取り/その読み取りが隠しているもの」の3列。

    → 操作層(分析・関連づけ)の遂行。外化の窓。
  3. 20–35分

    判定の交換と相互批判

    グループ間で判定を交換し、他グループの判定の最も弱い根拠を1つ指摘し合う。指摘を受けた側は修正か維持かを決めて理由を記録する。

    → 調整層を対話に外在化。自己調整はまず人と人のあいだの相互批判として現れ、内化される(社会的媒介)。
  4. 35–45分

    操作の命名と架橋

    全体で収束。教師は結論を裁定せず、「今日やった操作」を板書で命名する: 「規準の明示」「主張と根拠の切り分け」「隠れているものの探索」。「この操作が使える教科・場面を2つ挙げよ」を各自記入。

    → bridging(K5)。操作の命名と抽象化がなければ転移は起きない(D1)。教師の役割は裁定でなく状況設計(Dewey)。
  5. 45–50分

    個人の振り返り

    「自分の最初の判定はどこで変わったか/変わらなかったか。変えなかった場合、どんなデータが出たら変えるか」。

    → 自己修正の痕跡を残す(K3)。振り返りの巧拙を思考の質と同一視せず、相互批判の記録と突き合わせる。
教師の禁止事項(Resnick)

机間指導で「まず四分位範囲を比べてごらん」と経路を指定しない。指図した瞬間、その班の活動は思考力の発揮でなくなる。詰まった班には経路でなく問いを返す(「その主張は、データのどこを見れば崩せる?」)。

授業案2 単元設計「疑いのレパートリーを文化にする」(4時間+常設) — 三層の段階配置と K4・K6

傾向性層は単発授業では育たない(第3層・「思考の文化」)。単元レベルで三層を段階配置する。素材は情報Ⅰ「情報デザインとデータの活用」だが、構造は他教科に移植可能。

  1. 第1時〔操作層〕

    グラフの騙し方カタログ

    騙し方カタログ(軸操作・外れ値・n隠し・階級幅)を生徒自身に作らせる。既習知識を「騙す側」の視点で組み替える。→ 操作のレパートリー獲得。

  2. 第2時〔操作層→調整層〕

    問題A+三段審査

    問題A(広報 vs 保護者会)。作った資料を問題Bの三段構成(主張→起訴→再審)で相互審査。

  3. 第3時〔調整層〕

    授業案1の実施

    箱ひげ図の対立主張。操作の命名と他教科への bridging まで。

  4. 第4時〔総括〕

    パフォーマンス課題

    「実在の広報資料(自校の学校案内等)を1点選び、第三者として誠実さを監査するレポート」。規準は自分で立てさせる。

  5. 常設〔傾向性層〕

    仕込みデータの散発配置

    第4時以降、学期を通じて問題C(仕込みデータ)を無予告で散発配置し、台帳に記録。学期末の面談で台帳を生徒本人と一緒に見る(「君は3回中2回、n の欠落に気づいた」)。傾向性の評価は本人へのフィードバックと文化づくりに使い、評定には算入しない(D4)。

単元を貫く文化装置

教室の常用言語として「その根拠で十分?」「誰の目的に照らして?」「崩れる条件は?」の3フレーズを掲示し、教師自身が自分の説明に対して使ってみせる。思考力は個体の頭蓋内で自然発生せず、対話的実践から内化される(Vygotsky)。掲示は生徒向けの標語ではなく、教師が模範的に自問する台本として機能させる。

9評価設計 — 三角測量の実装(K6)

窓見えるもの具体物用途
① 履歴参照つきパフォーマンス課題 第1層(+知識基盤) 問題A・単元第4時。出題前に「前提技能の自動化」をチェックリストで確認 総括的評価に算入可
② 思考の外化物 第2層(部分的) 問題Bの三段構成、授業案1のワークシート+相互批判記録 形成的評価が主。総括に使う場合は「修正の質」を規準にし、記入の巧拙で代理しない
③ 低手がかりドキュメンテーション 第3層(長期でのみ) 問題Cの台帳 評定に算入しない。本人フィードバックと指導改善に限定
明記すべき限界(D4)

この評価設計をもってしても第3層は部分的にしか見えず、テスト場面の成績は傾向性の証拠にならない。通知表・調査書の「思考・判断・表現」の観点評価は①②の範囲しかカバーしていないことを、評価計画に一文で明記する。測れる①②だけを思考力と呼び直さないこと。

策問者・授業者セルフチェック

10参考 — 「学力」の定義

本サイトの「思考力」定義とは別に、同モデル(Claude Fable 5)が「学力を本気で定義して」というプロンプトに応答して生成した「学力」の定義(2026年7月)。独立に生成されたものだが、内部保存性・転移・構造化・説明責任という要件は、思考力定義の三層構造・基盤条件・測定論(D4)と強く響き合うため、参考として全文を掲載する。

学力とは、教育という意図的な働きかけによって個人の内部に形成され、外部の道具や他者の即時的支援を欠いた状態でも、未知の課題に対して自力で呼び出し・組み替え・適用できる、構造化された知識・技能・思考様式の体系であり、その形成の成否について教育の側が説明責任を負いうる能力である。

この一文には5つの限定条項が埋め込まれている。それぞれが「学力でないもの」を切り落とすために置かれている。

第1条項

教育によって形成される

学力を知能・才能・気質から区別する。中内敏夫が「教えられて学びとった能力」と定義したときの核心はここにあり、生得的な賢さや家庭環境の産物まで学力に含めると、学校は自分の仕事の成果を測れなくなる。学力とは、教育の結果として帰属可能な部分だけを指す概念でなければならない。だからこそ最後の条項(説明責任)と対になる。

第2条項

個人の内部に保存される

「スマホがあれば解ける」「隣に優秀な友人がいれば解ける」は遂行能力であって学力ではない。この区別は長らく自明すぎて明文化されなかったが、生成AIの登場で定義の中核に浮上した。生徒+AIの複合系が高品質な成果物を出せるとき、学校が形成したものは何か。この問いに答えられない学力定義は、2020年代以降は定義として機能しない。内部保存性を要件にすることで、「AIに委譲してよい部分」と「委譲したら教育が空洞化する部分」の境界線が定義から直接導出できる。

第3条項

未知の状況への転移

既知の問題の再生は記憶であって学力ではない。この条項がないと、学力とテスト対策の区別がつかなくなる。逆に言えば、転移こそが学力の存在証明であり、「授業で扱っていない文脈で発動したとき、はじめてそれは形成されたと言える」。定期テストの多くがこの条項を満たさない標本しか取っていない。

第4条項

構造化された体系

孤立した知識の集積は学力ではなく、知識同士が関係づけられたスキーマであること。これは第3条項の前提条件でもある。転移は構造からしか起きない。バラバラの事実は既知の文脈にしか適用できない。

第5条項

説明責任

勝田守一の「計測可能なように組織された能力」という古典的定義は、しばしば「測れるものだけが学力」という矮小化として批判されたが、勝田の真意は逆で、教育が公的営為である以上、その成果は検証に開かれていなければならないという制度的要請である。現行の三要素のうち「学びに向かう力・人間性等」については、教育によって形成可能で、かつ形成の成否を検証できる範囲(たとえば自己調整の方略)までは学力に含み、人格そのものは含めない。人格を学力に含めた瞬間、学校は生徒の内面の評定者になり、説明責任は評定権力にすり替わる。

定義から排除されるもの

学歴は学力ではない(選抜通過の履歴であって能力の現在値ではない)。テスト得点は学力ではない(学力という母集団からの一回の標本にすぎない)。道具込みの遂行は学力ではない(第2条項)。既知問題の再生は学力ではない(第3条項)。意欲・態度の「見かけ」は学力ではない(第5条項: 挙手の回数やノートの丁寧さは方略の証拠にならない)。

測定について

上の定義は「学力=測定値」を明確に拒否するが、「測定不能」も拒否する。学力は転移課題によるサンプリングでしか観測できない潜在変数であり、だからこそ任意の固定的な代理指標は必ずグッドハート化する。偏差値、正答率、提出率、いずれも指標が目標になった瞬間に学力との相関を失う。定義の側で「本体(転移可能な内的構造)」と「観測(標本抽出)」を分離しておくことが、指標のゲーミングに対する唯一の構造的防御である。

思考力定義との接続(編集注)

両定義は独立に生成されたが、構造的に対応する。学力の第3条項(転移)は思考力の D1「条件付き一般性」と K5(bridging)に、第4条項(構造化)は基盤①「領域知識」に、第2条項(内部保存性)は境界の原理「熟達者の直観はコンパイル済み知識」に、第5条項と測定論は D4「測れる部分だけを思考力と呼び直さない」にそれぞれ響き合う。学力を「転移可能な内的構造」と置くなら、思考力はその構造の上で走る〔操作×自己調整×傾向性〕として整合的に位置づく。

11クレジット — AI利用の開示(AI Usage Disclosure)

国際的な学術出版・研究発表で標準となりつつあるAI利用開示の慣行に倣い、使用モデルの特定・AIと人間の役割分担・与えた指示(プロンプト)の原文・責任の所在を開示する。

項目内容
使用モデルClaude Fable 5(Anthropic、モデルID: claude-fable-5)。Claude Code(CLI)経由で使用。
制作時期2026年8月
AIが行ったこと5系譜(行政・批判的思考・認知心理・国際枠組み・教育哲学)の一次資料調査、統合定義(DEFINITION.md)の執筆、定義から設計規則・問題・授業案・評価設計への変換(APPLICATION.md)、本サイトの設計・実装・GitHub Pagesへのデプロイ。
人間が行ったこと課題の設定、各段階での指示(下記プロンプト)、成果物の確認、公開の判断。
責任の所在内容の最終確認および公開の責任は Schoolagent Inc. が負う。AIの出力には誤りが含まれ得る。一次資料の引用・典拠はリポジトリ内の調査レポートに記録されているが、利用にあたっては原典の確認を推奨する。

使用プロンプト(原文のまま・時系列)

定義本体(CHARTER.md・5系譜調査・DEFINITION.md)は先行セッションで同モデルが人間の指示のもと作成した。以下は、実践編(APPLICATION.md)と本サイトを生成・公開した本セッションで人間が入力した全プロンプトである。

  1. 「https://github.com/GreatT0511/teigi/blob/main/DEFINITION.md の定義に従った、具体的な思考力を養う問題や授業案を編み出して」
  2. 「マージして」
  3. 「githubにマージして」
  4. 「この定義と解説、その具体的な問題と授業設計をサイトにして。」
  5. 「githubpagesでデプロイして」
  6. 「このサイトはFable5が調査し、作り上げたもの。2026 Schoolagent Inc.で出して、著作権の一切を放棄する旨を表示して」
  7. 「入れたプロンプトも表示するクレジットを載せる欄を設けて。一般的な世界水準の発表に沿う形で。」
  8. 「このサイトに以前fable5に定義させた学力についても参考として掲載して」(学力定義の本文を添付。当該定義は先行して「学力を本気で定義して」というプロンプトへの応答として生成されたもの)

問題・授業案の具体的な内容(題材の選定、問題文、授業展開、評価設計)はプロンプトで個別に指定されたものではなく、DEFINITION.md の定義を制約条件としてAIが導出・設計したものである。